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    6.「Vは挽回のV」

    ダンテの好物、ビーフ・ウェリントン。V is for Vengeance
    ビーフ・ウェリントン。

    叔父アルフレッドから行けと言われ、ダンテは頷き、長い固い握手をして彼の部屋を出る。

    ダンテの家、ゲスト・ハウス。

    ダンテの家のゲスト・ハウス。叔父が住む。

    父はダンテを、恩知らず、と罵るだろう。久しくなかったが、手が付けられないほど荒れるだろう。これから急激に弱ることが必至の父親を、ダンテは見捨てて行くのだから。父がダンテに命を与えてくれたことについての恩は、彼の子として彼に尽くしたことで、そして父親、キャッピ、手下など、彼ら全員の罪をダンテ一人で背負って生まれ故郷を捨てることで、もう十分に返したはずだ。今、ダンテの心に遠慮や後ろめたさはない。

    2羽の鳥が大空に飛び立つ。

    飛翔。

    ダンテが「行く」ことは、彼の子としてこの世に生を受けたという、揺るぎ無い事実からの永遠の解放そして自らの救済、つまり自由への回帰なのである。平たく言えば、父の呪縛から解き放たれ、彼から受け継いだギャングという家業を捨て、遅まきながら真っ当な人生を生きよう、としているのだ。

    たとえ人殺しが平気なギャングでも、自分の息子が犯罪から足を洗えば、それは大きな安堵である。自分は全否定されても息子が真っ当な道を歩み始めれば、それは父親にとっては福音である。

    ダンテの心の奥には、ギャングの子として産まれ育つ過程で気づき、消そうと努力しても消すことができなかった出自へのわだかまりがある。

    V is for Vengeance。しかし、この本の本質のどこにも「復讐」はない。

    V is for Vengeance の表紙。

    U is for Undertow の記事にも書いたが、グラフトンの選ぶ題名は難しい。C is for Corpse 『死体のC』は「事件そのものずばり」の題名で、そうでないものが軒並み並ぶとき、私はこの題名『死体のC』を実に愛おしく思う。ついでながら、次作の W is for Wasted も難しい。私の知らない意味がwastedにはあるのか、まだ勉強が足りないのか、と肩を落として絶望するほど、グラフトンがこの語を採用した真意が私にはわからない(「題名と内容」についてはさらに後日、A is for Alibiからきちんと考察する予定である)。

    この本の私的邦題は、結局いつもの通り、この本が著すメイン・テーマとする。「Vは挽回のV」。受けた恩は返した後で、そして親ガチャで背負った人生から失っていたものを、半ば晴れやかな心で取り戻す、という挽回、で「V は挽回のV」。この言葉は警察・犯罪・法律用語のいずれにも該当しないが。
    はい、確かにおかしい。かなり無理なこじつけです。でも、あなたはバイオリンと書きませんか?あくまでも[ヴァイオン]と発音して「ヴァイオリン」と書きますか?日本では[v] は [b]と同じ、と理解してください。そして、これは復讐の話ではなく、ダンテの再生の話であることを思い出してください。

    叔父アルフレッドから行けと言われ、ダンテは頷き、固い長い握手をして彼の部屋を出る。

    ダンテの家の広いキッチン。

    ダンテの家のキッチン。

    この家で長い間一族の食事を料理してきたコックは、いつも一家の動静をキッチンから見ていた。この夜、老ダンテも出かけ、家で食事を取るのはダンテだけ。彼女が用意した夕食は、ダンテが好きなものばかり。それが他人の示してくれたものでも、思いやりは思いやり。そして今この時も、表と裏の門衛、監視カメラのモニター係、叔父の世話をする看護婦、が広い家のあちこちで、ダンテとダンテの家を守っている。

    ダンテの好物、ビーフ・ウェリントン。

    ビーフ・ウェリントン。 ビーフをバターで炒めたフォアグラやキノコ、さらにパイ生地で包んで焼いたもの。

    ダンテは一人で夕食を取った。心暖かなひとときだった。

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