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    1.こういう話

    雪の中を行く恋人たち。V is for Vengeance
    雪の中を行く恋人。arina krasnikova のpexels よりの写真。

    V is for Vengeance はすっきりstraightforwardな話だ。構成がすっきりシンプル(第三人称で書かれるのは、ダンテとノラ、二人だけ)。登場人物がすっきり格好いい。後味もすっきり爽やか。

    V is for Vengeance の表紙。

    投稿原稿を書き始める前に「丁寧読み」をするが、今回は少し方法を変えた。いつも愚直に最初のページから読むのを、章立ての整理をして全体の構成を見て、全部通して読む前に、ダンテの章(全部で5章ある)を、それからノラの章(4章)を読んだ。V is for Vengeance はダンテが主人公。彼の魅力がふんだんに描かれる。準主人公のノラも綺麗で素敵。
    こういう設定もあるのかと感心したのが、「(肝心の)キンジーとダンテが二人相対峙するシーン」。これが非常に短い。とてもあっさり。でも、これもいい。初対面なのに、二人の間に通う信頼感がいい。

    章は全部で32。第一章と最終章にそれぞれ、BEFOREとAFTERという副題が付き、事件の伏線となるBEFORE の1986年を除いて、AFTER の事件解決後日譚まで全章(ノラとダンテの章も同時の進行、回想ではない)が1988年の時間設定である。もう一つ特筆すべきは「第31章ダンテ」。これだけ特別に、May 5、1988 と詳細な年月日設定が加えられている。例外にはいつも、意味がある。この日、5月5日に事件が急速に終息する。そればかりか、この日はキンジーの誕生日。1988年5月5日、彼女は38歳となった。大男から顔面に my big birthday surprise をもらって。

    バースデー・ケーキ。

    (ヘンリーがいれば作ってくれたと思われる)誕生日を祝うケーキ。

    U is for Undertowの事件解決は1988年4月21日木曜日だった。
    その何と翌日、4月22日金曜日、の午後、キンジーはデパートのランジェリー(お洒落下着)売り場に現れる。事件は解決したし、後処理も一段落、解放感いっぱいでバーゲン・セールを覗きに来た。そこでキンジーは、初老の女が万引きするその瞬間を目撃。それが事件の、そしてダンテに起こる大きな変化の、発端となる。V is for Vengeance はその変化の物語である。

    婦人下着売り場。

    婦人下着売り場。Jody BloemersによるPixabayからの画像。

    これまでの3作は登場人物の過去に遡ったり(時系列上あちこち、しかも3名以上の過去、T is for Trespass だけは1人で例外)、キンジーの事件解決への現代に戻ったり、とかなり忙しく、その行き来に振り回されて混乱することもしばしば。その点、事件の伏線(1986年)で始まるV is for Vengeanceは実際に事件が動く1988年(ノラやダンテのエピソードも)を時間軸通りに読み進めばよいので、ゆっくり事件の展開を吟味することができる。

    いつも通り地道な捜査を積み重ねるキンジー、今回印象に残ったのは、彼女が「これわたし大好き、得意!」と言って子どものように喜んだ「事実の収集」作業。

    デパートから出ていく黒いベンツ。

    ついに黒ベンツの女に辿り着く。PexelsのDmitry Zvolskiyによる写真。

    万引き女の死の謎を解く糸口は、黒いベンツに乗って逃げた万引きの相棒(危うくキンジーを轢き殺すところだった)にある、とキンジーは確信。
    そこでキンジーは現場に戻る。駐車場出口の防犯カメラをチェックし、残念ナンバープレートは映っていない、が映像の中の車に貼られたステッカーを手掛かりに、情報収集の知恵を駆使し、ひとつひとつ蝸牛の歩みの前進を続け、ついに自分を殺そうとした女の家に辿り着く(その後、彼女の行動を見張って、この組織犯罪の仕組みを炙り出す)。この謎解きを終わらせその成果を目の前に広げ、うーん楽しかった、と幸福感・満足感・達成感を満喫。

    キンジーには問題解決の糸口を見つける才能がある。その能力とは、その問題を問題でなくするためには何をすればよいか、がわかる能力。「問題」の構成要素を見破る能力。

    大学の図書館。

    大学図書館。

    思えば、家庭でも学校でも、私たちはずっと「問題解決」の方法を学んできたのだ。大学では専門の入り口を勉強するだけだが、社会に出てそれより高度の専門性・あるいはまったく別の分野の専門性が求められたとき、どうすればそれを得られるか、という「学ぶことの基礎」を学んだのだ。これも、問題解決。振り返ってみれば、社会に出てからは多様な問題発生の連続だった。そして私73歳の現在、毎日毎日大中小の問題解決実践の中で、人生とは問題解決の連続なり、と思うに至っている(いや、人生とは段取り、かな?いや、面倒くささとの闘い、かも)。

    幼いころのキンジー(イメージ)

    幼いころのキンジー(イメージ)。

    キンジーは標準的な子ども時代を送っていない。その分きっと、問題に直面する機会が続出したに違いない。だからこそ、彼女には問題解決の高い能力が培われ、一つ解決して次へ、と小さなパズルをどんどん解決し続けることができるようになった。この箇所には、黒いベンツの女からスタートしてその背後にある大きな仕組みを解明するまでが詳細に書かれている。その過程を追うことは、キンジー同様、私たちも楽しい。

    キンジーが扱う事件は1案件ごとに完結するのだが、キンジーの時間はずっと同じ時間軸を淡々と流れている。それを確認しておこう。このキンジーの時間の流れも実に味わい深いのだ。
    S is for Silenceの事件着手は1987年の9月、解決までの時間、5日間。
    T is for Trespassは1987年のクリスマス前から1988年バレンタインまで、少し長い、2か月。
    U is for Undertowは1988年4月6日から21日まで、2週間強。
    V is for Vengeanceは4月22日金曜日から5月5日木曜日まで、ちょうど2週間。ここには、次作品へ繋ぐエピソードがちゃんと「蒔いて」ある。

    日本特有の三毛猫。

    この頃あまり三毛猫を見かけなくなりました。

    それは猫。本作品中でも次作品の中でも、決して重要な役割を果たすわけではない。しかし、キンジーの生活の中に登場し、事件の奥に流れる時間に重みを添えてくれる、洒落た、可愛い、小道具である。それがまた、日本特有のもの。雄の三毛猫しかも金目銀目(きんめぎんめ:目の色が黄色と水色)。詳しくは次のW is for Wasted で。V is for Vengeance にはこの日本猫の他に、日本の石庭を模した庭と、その庭の管理をする「庭師石黒さん」も2回ほどたっぷり登場。「Japan」の登場もこう頻繁になると、何となく居心地の悪さを覚えないでもない。

    石庭。

    本場日本の石庭。

    この本は、ざっと、こういう内容の話。

    ついでながら、先日(1月18日火曜日)報道された鉄道コンテナ窃盗団とフラッシュ・ロブは、まさしく、この本で描かれるダンテの盗品再流通事業の現代版。盗品の情報をすっかり消し、再包装して輸出する。奇しくも三件ともカリフォルニアで起きている。鉄道窃盗団は走っているコンテナに飛び乗り、コンテナを破り、安物や外箱を線路上に投げ捨てる。一方フラッシュ・ロブはパーカーを着た男の軍団が閉店後の店に雪崩入り、それぞれが手あたり次第に金目の物を盗んで一斉に消え去る。カリフォルニア州では軽い罪は起訴をしないことが、こうした犯罪を助長している、らしい。

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