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    3.ダンテの家

    ダンテの家。V is for Vengeance
    ダンテの家。

    生命の誕生に心が震えても、子どもの成長に関りを持とうとしない親はいずれその感動を忘れる。

    ダンテの父親がそうだった。毎年のように産まれる第二子以降には、もはやたいした感激もない。子どもの数が増えるにつれ、子どもが作る騒々しさに辟易とし、どんどん成長する子どもたちを受け入れられないことすらある。
    ダンテの父親だけには限らない。働き盛りの若い父親は夜遅くくたびれて家に帰り、とっくに眠っている子どもの顔を見ることがあるだろうか。あったとしても、それだけでは絶対的に足りない。日々変化する、彼らの無邪気な笑顔、見上げるつぶらな瞳、意味が不鮮明な言葉のおしゃべり、おもちゃの楽器で遊ぶ姿。忙しい父親は彼らの成長の一コマ一コマをほとんど知らない。

    赤ちゃんが楽器で一人遊び。

    赤ちゃん楽器を演奏。thedanwによるPixabayからの画像。

    何という損失。

    子育ては女がすること、と男は子育ての一切から逃げていないか?

    ママをじっと見つめる赤ちゃん。

    確かに子育ては、根気が要る、汚い、果てしのない作業だ。母親ですら、昔も今も、この作業でくたびれ果てる。しかし、おむつがきれいになった途端に機嫌よく笑ったり、ある日突然最初の3歩が歩けるようになったり、うーうーと可愛い声でおっぱいを欲しがったり、と幼い子どもから母親は疲労度をゼロにする特別なフィードバックをたくさんもらう。
    そうした素晴らしい瞬間、男も見ようよ。溜まっている仕事をてきぱきゼロにして、早く帰ろう、休みを取ろう。子どもと四つに向き合おう。とてもくたびれる、しかし大いに報われる。正面から向き合えば、子どもは大人を幸せにする。それに、雑事と喜びの共有は母親である妻に優しく寄り添うことでもある。

    初めての子育てを狭い閉鎖空間で行っている多くの若いママたちは、マタニティー・ブルーという得体のしれない病魔に蝕(むしば)まれ、泣く子を放置しひたすらぼんやりしたまま、動くことができない。無力な自分を恥じながら、時には何もわからない子を折檻することすらある。若いママたちは孤独と闘っているのだ。

    家族全員が一緒に食事。

    屋外でみんな一緒に食事。

    大家族制度はその点理想的な環境を提供していた。両親以外の大人たち、折に触れて加わる従兄弟従姉妹達、が家の外の空気を幼子の周囲に運んでくる。たくさんの関心が幼子に集まり、愛撫され、すぐに彼らの関心は別の事に移っても、幼子が泣き出せば、周囲にいる全員がなんだなんだと寄ってくる。幼子が笑えば皆も笑い、上手に離乳食を食べれば褒める声が挙がり、通りすがりの大人が頭を撫で撫でし、とたくさんの人との多様な接触に出会う。

    大家族が集う。

    大家族が集う。

    現代、こうした風景は都会では無理だ。だが妥協してはならない、子どもとママを閉鎖空間に放置してはならない。夫が子育てに積極参加する、祖父母も頻繁に行き来する、その努力にも限度があるとき、別の方法も試してみよう。公的な施設で行われる母子の集い。図書館で行われる「本の読み聞かせ」もいいかもしれない。同年齢の子を持つ人と親しくなり、一緒に子どもを遊ばせ、共に励まし合おう。子どもを育てることは容易ではない。いつの世もそうだった。それを知っているたくさんの人があなたを見ている。お手伝いしようかな、どうしようかな、と迷っている。困ったら遠慮なく助けを求めよう。すみません、と言えばあなたを見ている人は飛んできてくれる。

    ダンテと母。

    ダンテと母、腕には幼いキャッピ、妹は1/4だけ(イメージ)。

    ダンテの家は、母親が家を出て行ったときに壊れた。

    その直後から子どもたちは母親・女主人という求心力を失った劣悪の環境の中で育つ。時間が経ち、父親は落ち着き虐待は収まり、子どもたちは成長し、父親の仕事を手伝い始め、そうしてダンテは全面的に父親の仕事を受け継いだ。しかし蓋を開けてみれば、組織をまとめ動かしていく金がほとんどない。組織として体を成していないものを、ダンテは手渡されたのだ。その脆弱な母体をダンテは基礎から固める。

    ダンテの家。

    ダンテの家。

    ダンテが住む家は凄い。敷地は32エーカー。1エーカーは4,047㎡だから、私の筆算が正しければ、およそ4万坪の広さである。空間把握が難しいほど、広い。このすべてが高い石の塀で安全に囲われ、表と裏にある門には電気で開閉する鉄の扉が付き、門の横にある詰め所には門衛が3交代で人の出入りを監視する。ここはまさしく、ギャングが住む家。4棟ある建物のうちプール・ハウスとダンテのホーム・オフィスは、安全面を考慮して、母屋とは地下道で繋がっている。

    ダンテの家。

    ダンテの家。

    なぜこのように大きな、これ見よがしの家を買ったのか。それは、ダンテが真っ当な生業に就いていないという強い「引け目」を持っていたからである。父親から受け継いだ胡散臭い商売は「事業」とし、税金も払うようになる。それでもその事業の本質はそれまで通り、犯罪がらみのものばかり。その矛盾はダンテがひたすら体裁を整えても何ら変わることがない。心にあるわだかまりも決してなくならない。

    それは。父親から受け継いだものへの嫌悪。幸せではなかった子ども時代の記憶。父親が自分をギャングの子にした、ということへの漠然とした恨み。

    ダンテの大きな家は、子どものために買った家ではない。それは、世間体を繕うためだけの家。 年老いた父と叔父の面倒を見てその二人を看取る家、悪の稼業を終焉させる家、ダンテも去って行く家、誰もいなくなる家。ただの仮住まいだった家。

    ダンテの家、ゲスト・ハウス。

    ダンテの家、ゲスト・ハウス。

    その広い家はダンテが本来の家に戻るために、出て行く家。

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