新しい試みで読みながら記事を書いています。最後まで読み終わったのですが、記事はまだ第8章にあります。
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    2.ダンテの父

    2羽の鳥が大空に飛び立つ。V is for Vengeance
    飛翔。

    前作U is for Undertowでは、成長する家庭、家を失う家族、崩壊する家庭、離散する家族、を見た。ここV is for Vengeanceでも、一つの家族が崩壊する。

    ダンテの家の玄関。

    ダンテの家の玄関。PexelsのOlya Kobrusevaによる写真。

    新しい生命の誕生は神秘だ。泣いていても眠っていても、赤子の存在は驚異そのもの。胸が張り裂けそうな幸せだ。人はこの感動を、自分の子供の誕生をもって知る。全存在を親に依存するその子に、この世のすべての幸を享受して欲しい、と願う。この子のためならば何でもしよう、と誓う。それはダンテの父親でも同じことであった。

    息子を抱く父親。

    息子を抱く父親。PexelsのLaura Garciaによる写真。

    さらにその子が男子であった場合、父親となった男ならば誰しも、自分の後継者として産まれたこの子に、自分が受け継いだ家と家業をさらに強大に豊かにして譲り渡そう、と思う。政治家でも医師でも梨園当主でも、職人でも商家でも農家でも、将軍家でも、そして裏の世界を牛耳るギャングでも、思いは一である。

    歌舞伎座。

    歌舞伎座。

    また一代、家が縦の線で繋がればそれは大変めでたいこと。徳川家は将軍となった家康から260余年の間、その家督の引き継ぎを脈々と続けた。これには大変な苦労が伴う。絶やさないように側室が控えていたし、御三家や御三卿がもしもの場合に備えて配されていた。
    平民レベルでも土地・職業・資産があれば、一家を存続させることは代々の最重要案件。後継ぎがいないということは、そこでその一家の文化が絶えてしまう、何もかもが消える、ということ。今この時を生きている私たちは人間の歴史が始まったその瞬間から、ずっと、受け継がれてきたこの命を生きている。人類の歴史600万年が私たちの前にある。しかし、自分に後継ぎがいないということは、その脈々と続いた歴史の流れが自分で、ここで、プツンと終わるということ、自分は誰にもバトンを渡せない最後の走者である、ということ。

    バトン・タッチをする走者。

    バトンを次の走者に渡す。

    このことを認識して私はしばらく考え込んだことがあった。
    仕事で訪ねた地方都市。ここには江戸時代の学者の一族が綿々と今に続き、彼が開いた学校に案内されたとき、彼の子孫が現在も各方面で活躍している、と聞いた。何世代もの家族の信念と努力の賜物である、とも。親族全体が関わった努力、そういうエネルギーが必要なのだった。
    世の中には、そういう意識が高い家系もあれば、しょうがない、と運命の結果を受け取る家系もある。両方ともそれぞれが引き継ぐメンタリティーであり文化である。そうわかって私は納得した。

    枝を低く張らせた梨園。

    枝を低く張らせた梨園。

    両親から引き継いだ家を次世代に繋ぐ。
    日本ではそうした家督相続・家制度への考え方が大きく揺らぎ始めて久しい。
    男児がいても、この頃の親は寛容でもはや家を継ぐことを強要しなくなった。したいことが別にあるのなら、それをすればよい、と現代の親には家業を自分の代で終える覚悟がある。使用されなくなった梨畑はその後信じられない安価で人手に渡り、長い間手塩にかけて育てた老木の長十郎までが切り倒され、ソーラー発電パネルがズラリと並ぶ可能性を思う時、彼らは血の涙が出るほどの悲しみを味わうことになるのだが、家業は農業の場合、継いだところでさほど豊かさを約束してはくれない、それどころか、続けることとは血の滲むような、砂を噛むような日々の苦労を覚悟することと同義だ。

    ソーラー・パネル。

    ソーラー・パネル。

    息子の誕生を喜んだ父親は、長男に自分と同じダンテという名前をつけた。そして自分が築いた仕事の基盤を、息子に継がせようと願った。ダンテは父の思いを知りながら育つ。父が禁酒時代に違法製造をしていたとき、その樽を貯蔵していた地下トンネルの迷路を走って少年ダンテは遊んだ。父親が部下に命令を下す傍らで遊んだ。父親から人間の見方を延々と聞かされた。
    母が突然家を出ていくと父親の虐待が始まり、それは12歳のダンテに向けられるが、少年はじっと耐える。父が認めるよい子になろう、と唇を噛みながら。

    鉄製ゲートと石壁の家。

    鉄製ゲートと石壁の家。

    そしてダンテは父の意志通り家業を受け継ぎ、まもなく大きな家を買い、人の殺傷を伴う仕事から撤退し、そうでない仕事の近代化と組織化を図り、一等地にオフィスを構える。今や彼はサンタ・テレサ有数の事業家である。が所詮、引き継いだ家業はあくまでもヤクザな犯罪稼業。ダンテには多数の法律違反の嫌疑がかけられ、逮捕の日が刻々と近づいている。それは父から受け継いだ負の遺産。家を継ぐという枷で縛られたダンテ、法律から自由を剥奪されようとしている。

    2羽の鳥が大空に飛び立つ。

    2羽の飛翔。

    ダンテ50歳半ば、ギャングの子として産まれそれをごく自然に受け入れ、そこで最善を尽くした。父とダンテの築いたものの終焉が迫り来る中、ダンテは初めて、彼を父とする自分の存在の、全く異なる可能性を目の前に見る。
    それを可能にしたのは、ダンテの三つの特質。
    1.人間の本質を見抜く力、
    2.人の信頼に厚く応える心、そして、
    3.良い人間である、ということ。
    彼は飛翔する。彼を心から心配する叔父、共同経営者、一番秘書、この3人の助けを得て。

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