U is for Undertow の投稿は終了しました。これから次の V is for Vengeance の準備に入ります。しばらくお待ちください。
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    キンジーの周りのMade in Japan第二弾            (Alphabet Series 翻訳中止を推理する)

    アンティークの電話でラブ・コール。U is for Undertow
    ラブ・コール。Image by Şinasi Müldür from Pixabay

    1.futon(布団)
    そのスクールバスは改造トレーラーハウス。奥に大きなマットレス、運転席の後ろに少年用のぺったんこな布団が敷いてある。ここで売人高校生と一緒に、ヒッピーの2人は毎日マリファナを吸う。

    畳に敷かれた敷布団。

    2.Japanese eggplants(日本茄子)                           米茄子は大きく短く、コロンとしている。デボラが裏庭で栽培しているのは、日本茄子。薄く切り、塩を振って水分を飛ばし、チーズをかけて冷蔵庫で寝かせ、オーブンで焼く。おいしそう。

    アメリカで認知されている日本茄子。

    アメリカで認知されている日本茄子。Image by japanibackpacker from Pixabay

    3.日本で作らせたタペストリー:12世紀の織物(画像なし、あくまでも fiction)
    一代で財を成したイギリス人がサンタ・テレサに来て、現在のホートン・ラビーンの海が見える一角を買う。彼はそこに湖を作り大きな屋敷を建てる。そこに飾られた特注の12世紀の日本織物。

    4.日本のTop Ramen(画像なし、即席ラーメン全般のことラシイ)                            高校卒業が危ぶまれたとき、ジョンの才能を買っていた英語教師が救済策を:夏休みに毎週短編小説を提出すれば特別に卒業を許可。彼はシリアルとトップラーメンで食いつなぎ、ひたすら書く。

    5.Kabuki歌舞伎(画像なし、歌麿のあの役者の版画のイメージ)
    従姉ターシャとキンジーが食事。二人はそっくり。ターシャは眉毛を抜いている。キンジーも抜いたことあり。不器用で眉がマダラに。眉ペンシルで補正したら、まさに大見得を切る歌舞伎役者。

    6.日本の1986TOYOTA(画像なし、Crown かな)
    事故を起こし免許証を没収されたウォーカーが市内移動のために雇った運転手は副頭取の息子、車は彼女のスペアの車、トヨタ。裁判の際に心証をよくするため、AAの集まりに行くときもトヨタ。

    ここから脇道へ入る⇒AAとは Alcoholics Anonymous、つまりアルコール中毒者更生会・断酒会のこと。断酒したい人が参加、断酒の辛さと喜びを共有しながら、更生を目指すもの。何回目かのAAの集まりが終わり、ウォーカーが玄関口でトヨタを目で探していると、そこへ車を寄せた非常に若い男が運転席からじっと彼を見つめている。一瞬間、目と目が合う。ああ、あの時の子供だ。名前も住所も聞いたんだった。そう、マイケル・サットン。ウォーカーは動揺を隠しながら、副頭取の息子が運転してきた車に乗り込む。⇒ここで脇道を出て本道へ戻る

    ヘッドフォンの置き場。

    ヘッドフォン。

    庭の葛の近撮。

    庭の葛。

    ペン立ての中のパイロットのペン。

    パイロットのペン。Andreas LischkaによるPixabayからの画像。

    T is for Trespassには三つの ↑↑↑made in Japan (Sony、葛kudzu、Pilot)が生活の一部として登場していた(その記事のSonyはこちら)。ここ、U is for Undertowにはさらに、何と、六つ。

    これって、グラフトンから日本へのラブ・コール?

    アンティークの電話でラブ・コール。

    ラブ・コール。Image by Şinasi Müldür from Pixabay

    私にはそう思えるのだ。これまでの原文の刊行年と日本語訳の刊行年を全作品一覧表で比較してみると、オリジナルの刊行年の翌年に翻訳本が刊行されている。例外的な『悪意のM』、『縛り首のN』そして『危険のP』は、驚くなかれ、その年の内に。この事実が示唆するのは、第一稿はできた時点ですぐ日本に送られたということ。グラフトンはすぐ第二稿、第三稿と推敲作業に取りかかるが、同時に半分の力を次の作品に移す。構成を考える。細部のスケッチをなるべく多く書き貯める。まだ書き始めることはしない。機が熟せばすらすらとペンが運ぶ、そこまでじっくり熟成させながら、ひたすら大きな筋をあらゆる方向から検討する。今の本と次の本、二つの世界を行ったり来たりするこの作業、淡々と、規則正しい生活のリズムを崩さずに、進めたのではないか。

    打ち合わせながら作業を進める。

    忙しい作業。

    一方、第一稿を受け取った日本サイドも突如忙しくなる。直ぐに翻訳作業に入る。数人が一斉に下訳を始め、女史がそれをできあがった部分からまとめていったのか、それとも自動翻訳機で一挙に下訳を作って、女史が一人できれいな翻訳に仕上げていったのか、どういう体制で翻訳作業が行われたのか、その実際はわからない(翻訳の勉強をしながらロマンス小説の翻訳を請け負っていた知人は全部一人でしていた)。

    オフィスで打ち合わせ。

    打ち合わせ。

    オオカミと家庭犬の自然交配とか、19世紀中ごろの Homestead Act(自作農場法)とか、西部開拓の歴史など、訳者が翻訳作業を離れて調べなくてはならないことが、グラフトンの本にはたくさんある。このチェック、ネットで調べたり、メールで専門家に問い合わせたり、実際に会って話を聞いたり、時間がかかるし、神経を使う(この作業で協力してくれた人々の名前が Acknowledgments [謝辞]に書かれるのだ)。この分厚い1冊を1年そこそこで翻訳することさえ至難の業なのに(ロマンス諸語はともかく、その他の言語への翻訳はこれほど速くはできないはず)、そういう作業も?凄いネエ。

    R is for Romance の表紙。

    翻訳中止はこの本の準備中に決定されたのでは?

    これはあくまでも私の推測なのだが、『ロマンスのR』をもって翻訳打ち切りとなった背景には、途中からシリーズの売れ行きが横ばいから下降になったという事実があるのではないか。もしかしたらそれは、キンジーの「わたし」で紡ぐ小説技法の限界に、読者離れが起こっていたせいかもしれない。グラフトン自身もその限界については長い間ひしひしと感じていて、そこで打ったのが「視点(人称)の切り換え」。1分1秒を無駄にはできない作業の中で、S is for Silenceを練り上げ仕上げながら、彼女はその19作目に確かな手応えを覚え、これで読者を引き戻すことができる、と大きな自信を持ったはずだ。事実、面白くなった、ストーリーに厚みが出た。

    S is for Silence の表紙。

    グラフトンはこの本で大胆な飛躍を試みる。

    早川書房のホームページには翻訳打ち切り決定のことなど、細かい情報は何も記されていない。随分前のことだし、そもそもキンジーのアルファベット・シリーズはすでに過去のもの、アルファベットのアの言及もない。インターネットで調べる限り、誰も実情は知らないみたいだから、どこかのサイトで目にした、「翻訳して出版してもペイしない」、というご意見が打ち切りの一番妥当な理由ではないだろうか。繰り返しになるが、残りの本8冊で挽回できたはずなのだ。既刊未翻訳の7冊は前の18冊を凌ぐ面白さなのだ。ペイしたはずなのだ。残念。

    未翻訳6冊、TからYまで。

    Made in Japan はT is for Trespass から出現する。

    翻訳打ち切り決定の知らせを受け、落胆し心を痛めたグラフトンが、せめて英語でT is for Trespass以降の本にアクセスできる日本の読者に、日本のものをたくさん織り込んで、「どうか翻訳再開熱を盛り上げてプリーズ」、とコールしたのではないか、と私はみる。中止への抗議や翻訳続行依頼の電話やメールが早川書房にバンバン届き、やはり一応最後まで行くか、と編集会議で再考慮されることだってあり得た。

    編集会議が開かれる。

    緊急編集会議。

    いやいや、当たらずとも遠からず、だと思う。この本には最低六つの made in Japan がさらりと描かれるが、私の張ったアンテナには made in Korea も made in China も何一つ引っかからない。日本だけが贔屓されている。それは、日本での翻訳版の発行部数が格段に大きかったからだ。日本では一時期、書店にはアルファベット・シリーズがずらりと並んでいたのだ。推理小説に特に興味がなくても、おっ読んで見ようか、と手に取りたくなるほど効果的なプレゼンテーションで。

    キンジー文庫全容。

    私のキンジー文庫。初めは図書館の本だった。何回も読むので、全巻購入した。あれ、T is for Trespass が迷子だ。

    (あーあ。何と残念な。)

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