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    サンタ・テレサ市、ホートン・ラビーン                      美は金色のパスポート、知は銀、ならば銅は何?

    谷底近くを通る馬の散歩道。U is for Undertow
    馬の散歩道。

    サンタ・テレサのホートン・ラビーン、ここは金持ちが住む町。資産が動産・不動産合わせて1億円くらい、では到底ここには住めない。世界には大金持ちがごまんといて、ホートン・ラビーンのような町を世界中に作り上げた。日本にもいくつか有名どころがある。東京の田園調布や成城、関西の芦屋、そこの住民が夏に住む軽井沢。

    テキサス州の高級住宅街。

    テキサスの高級住宅街。

    金持ちがどれだけ金持ちであるか、の一つの指標になるのが、マヨネーズ。瓶入りのマヨネーズなど(アメリカでは瓶入りで売られている、日本のチューブ入りのほうが便利だけど、ね)、ここホートン・ラビーンではマヨネーズとして認知されない。マヨネーズとは卵と酢とオイルで食べる前に作るものなのだ。えっ、お母さんが作ったの?思わずキンジーが聞き返すと、「メイドが」と依頼人マイケル・サットンは当たり前という顔で答えた。キンジーはさらに驚いてしばし固まる。

    冷蔵庫の中のマヨネーズの瓶。

    マヨネーズは伝統的に瓶入り。Image by luctheo from Pixabay

    21年前のその日、マイケル・サットンは近くに住む同級生の家に預けられる。お昼はサンドイッチ、瓶マヨネーズはここで初めて見た。その子は風邪気味。そこで彼は一人で庭に遊びに出る。
    このホートン・ラビーン、サンタ・テレサの丘陵地帯にあり、入り口に石の門を構える。ラビーンとは、峡谷、谷間のこと。谷が周囲に巡る丘が開発され、高級住宅が造成された。ほとんどが傾斜地で、公道から見ると一階建ての家でも、公道の奥は急斜面、家はそちら側から見ると2階建て。

    彼が居間から出たテラスには、プールとシャワー小屋があり、バーベキューの設備も整っている。その横には、居間から見えるように3段の斜面の庭が作られている。果樹園、東屋とベンチ、薔薇園、とそれぞれが異なる趣向を凝らして。その下は渓の底まで、灌木や高木が生い茂る自然林が続く。これがすべて一軒の家の庭。

    庭のプール。

    プールの先は斜面。左手に3段の庭。

    その渓底は、周囲の斜面の上に建つ、他の家と共有する空間だ。ここには、公道から谷に下り、森の中を巡り、別の公道に繋がる馬の散歩道も走っている。日本の「ポツンと一軒家」と郊外の住宅街の、ちょうど中間あたり、の牧歌的な情景がここにはある。街の中心はすぐそば、海も空もいっぱい、森の豊かな恵み、と非常に贅沢な生活が可能な、サットンの友人のこの家、ホートン・ラビーンでは中級程度の家に過ぎない。

    谷底近くを通る馬の散歩道。

    馬の散歩道。Image by Hands off my tags! Michael Gaida from Pixabay 。

    金持ちと一口で言っても持つ資産の量はさまざま。開発初期にこの地に到着したイギリス人クリンピングは海が見える側の丘をいくつか購入。泉があったのでそれを拡張して湖とし、そこから敷地全域に灌漑設備を敷き、丘二つを削って平らにすると、そこに古い様式の邸宅を建てる。厩舎や温室、何から何まで揃え、ヨーロッパの領主のような生活を送った。金持ちもここまで来ると、ははーっ参りました、の遠い遠い存在。金持ちであることを威張る人たちが何と身近に感じられることか。

    大富豪が丘を切り開いて建てた屋敷。

    大富豪の大邸宅。Image by Keith Johnston from Pixabay 。

    今ふと、思いついたのだが、もう一つ、特別なパスポートがあったではないか。美が金色のパスポートなら、知は銀。それなら銅は? そうです   金・かね・マネー

    代わって日本。
    その住宅街には爽やかな風が吹いていた。他の町と異なるのは、樹の多さだ。高い塀の中にも、歩道と車道の境にも、樹が植えられている。砧(きぬた)にある小さな映画会社に初めて出かけた時、たまたま歩いた住宅街だ。映画会社の人にその話をすると、ああ成城ね、と言われた。私はその名前を初めて知った。

    塀の中に大木がいっぱいの金持ちの家。

    塀の中の立派な木々(ここは成城ではありません)。

    そうした屋敷町の佇まいが危うくなっている。高い塀の奥に鬱蒼とした植え込みが見える古い豪邸にある日トラックが数台横付けし、しばらくすると取り壊し作業が始まる。樹は切られ、屋敷は解体、やがてその広い敷地は更地になり、細分化され、現地見学の幟(のぼり)が近所の角々に立つ。そして、ちんまりとした家が数件、あるいはその町の名前を冠したマンション、が建つ。

    マンションが建つこともある。

    ホテルが建つこともある。Image by Mac Kenzie from Pixabay 。

    相続税が高すぎるから。
    一生懸命働いて、家族のために一等地に大きな家を構える。家族はそこで豊かな生活を営む。2、3代続いた家もあったかもしれない。が、払いきれない相続税のため、家族の家はやむなく手放される。そこに住んでいた家族の記憶が、そこで消える。最後には、家も消える。

    売りに出た家。

    売りに出る。Image by Mac Kenzie from Pixabay 。

    日本だけの現象ではない。家を離れる理由も、高すぎる相続税だけではない。サットンが預けられたその家も、彼が数時間を過ごした1週間後には家族が夜逃げ、家は空になった。サットンの家も同じだ。両親が死ぬと、子供たちはすでに自立して家を出ている、その家で4人の幼い子供が泣いたり笑ったりした一つの家族の思い出が、家と共にそっくり消える。

    子供が産まれる。

    この子のために頑張る。

    父親も母親も、そのような結末のことは微塵も考えなかった。
    富も家も家族も、はかない。
    人も人が作ったものも、いずれは消える。

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