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    消えた1週間

    作家が原稿を推敲している。T is for Trespass
    推敲の最中。

    シリーズ始めの頃はすっきりシンプルだったように思う。

    「アリバイ」と”Trespass"の2冊。

    『アリバイのA』と “T is for Trespass”。

    『アリバイのA』では、引き受けた真犯人を探す仕事以外では(求められた仕事以上にやりすぎて依頼主から迷惑がられた)クレーマー消費者の実態調査をしただけのキンジーだが、T is for Trespassでは混乱するほどたくさんの仕事を掛け持ちする。それでいて、もっとも骨の折れたのが、金にならない「隣人ガスの救済」だった。キンジーは本当にいい人なのである。

    夏の庭の葛の茂み。

    葛(右)と蔓豆。

    S is for Silenceで採り入れた、「私」以外の視点の使用、はT is for Trespassでも採用。ここでは「私(1人称)」と「ソラナ(3人称)」の2本立て。「ソラナ」だけ読めば、彼女の企み・本音・実体がはっきり見える。その企みに、キンジーが絡む。ソラナがキンジーの世界に入ってきてキンジーに絡む。二人はKudzu葛の蔓のように互いに絡み合い、太い1本になってさらに伸びていく。そこに同時進行の仕事も絡んでくるのだ。蔓豆(つるまめ)のように細い細い蔓を伸ばして、しっかり、葛に巻き付く。

    紙に書き出した人物ごとの時系列の行動。

    整理すると理解しやすい。

    とても複雑なので、紙を2分し、それぞれの列にキンジーとソラナがしたことを時系列で書き出した。すると、掛け持ちの仕事の一つが、長引いて重要なテーマに発展する様相になったので、私は「ソラナ」と「キンジー」の隣に、「他の仕事」ともう1列を書き加えて3列の動きを見ることができるようにした。そこに進展の順に行動・出来事を書いていく。「私」の章では年月日や大まかな時間も書かれるので、時間経過・物事の進展・互いの関連性が意外にもたやすく把握できる。

    二人のエネルギーが衝突。

    2人のエネルギーが衝突。

    ソラナとキンジーの2列に、それぞれの活動が同じ場所で同じ時間に起こることがある。二人が相対峙するときがそれ。例えば、あなた、ソラナね、とキンジーがガスの家に行って自己紹介をするシーン。また例えば、ガスがバスタブで転倒し、動転したソラナがキンジーに助けを求めに来るシーン。二人が出会うとき、二つの大きなエネルギーが正面からぶつかり、そこには強力な磁場ができあがる。

    ソラナを盗撮。

    ソラナを盗撮。PexelsDavid Bartusによる写真。

    このエネルギーが私たち読者に最も強く伝わるのが、キンジーがこっそりソラナの写真を盗撮しようとするとき。動物的本能でキンジーの存在を感じるソラナが、どこだ、どこにいる、とキンジーが隠れている場所にぐいぐいと近づいて来る。

    この箇所で私は本を置いて、息継ぎをしなくてはならなかった。

    本を置いて息を継ぐ。

    あまりの怖さに本を置く。Dariusz SankowskiによるPixabayからの画像 。

    そのように書き出し作業をしながら、ふと見えた。

    グラフトンも似たような作業をしたのだ。

    1988年のカレンダー。

    1月のカレンダー。1988年と曜・日が同じ。

    ストーリーの大筋の流れに外的要素(大小の仕事の進捗状況)を効果的に挿入するためには、「脇」となるそのストーリーを、全体的な因果関係のバランスを乱すことなく、無理なく本体に絡ませなくてはならない。そこのところのやり繰り・算段・整合性・離れ業を担保するため、グラフトンには図解して確認する綿密な作業が必要だったはずだ。1988年のカレンダーを横に置いて。

    1988年2月のカレンダー。

    Emmie_NorfolkによるPixabayからの画像。

    ところが。入念な構成の慎重な作業だったにもかかわらず、彼女は複雑な人やモノの出入りに混乱してしまう。具体的には、ストーリーの中の時間軸で1週間を飛ばしてしまう。

    いや、私の勘違いではないと思う。1週間辻褄が合わない、と私は文字通り飛び上がって驚いた。それからその部分を2回精読した。1日1日のキンジーの仕事の表をしっかりチェックしながら、見落としがないことを確認しながら。

    T is for Trespass の発行所名。

    T is for Trespass の発行所名。

    1月26日火曜日の仕事のあれこれが目まぐるしく動いている最中、キンジーは見知らぬ男から封筒を突き付けられる、「あんたにこれが、裁判所から」。そのソラナへの接近禁止命令には「当件ヒアリングは2月9日、来週火曜日に行われる」とある(A Marian Wood Book, PUTNAMの T is for Trespass、312頁上から8行目)。1月26日火曜日の次週は2月2日火曜日。9日ではない。やはり、「失われた1週間」は「失われている」。

    発行所名、住所。

    詳細。

    これだけの量の小説を全体管理することは非常に難しい。そもそも、ストーリーは極めて複雑な構成をしている。あ、あそこと辻褄が合わない、と思ってそこを直すと別の矛盾を生み出すこともままある。小さな矛盾に気づいても、すぐにそこにジャンプして直すわけにはいかない。まずは今の作業を終わらせないと、元のこの場所に戻って来られない恐れがある(だが、後回しにすると、その気づきを忘れてしまう危険もあったのだ)。

    作家が原稿を推敲している。

    推敲の最中。PexelsMikhail Nilovによる写真。編集者のイメージです。

    いや、彼女のミスをあげつらう気は毛頭ない。ただ、極めて複雑だからこそ、彼女もいろいろな出入りに細心の注意を払っていたに違いない、それでもつい間違えた。その1週間の誤差に気づいていたのに、直すことを思い出すことができなかったのかもしれない。1か所の直しが他の部分にも波及して、大変な作業になることもある。そこでグラフトンも編集者も、このままで、とやむなく目をつぶったのかもしれない。しかたがなかった。私はそうした事情を想像しただけ。

    推敲をしている。

    推敲進行。PexelsLisaによる写真。

    いや、それを言うなら、私も3回目の読みとなると、慣れが生じていて、1行2行を飛ばして読んでいる可能性があるのだ。または、大いなる勘違いをどこかでしたのかもしれない。

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    私も読み返し。

    ただ幸いなことに、その1週間の誤差はストーリーの運びに何の不都合も生んでいない。

    協力をお願い!!

    どなたかプリーズおねがい。

    それでも、どなたか1月4日月曜日から26日火曜日まで、フレッシュな目で読んでくれませんか。

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