依頼を引き受けた後日、キンジーはデイジーの案内でバイオレット失踪事件の舞台となった小さな村を訪れ、バイオレット一家が住んでいた家の前に立つ。この予備調査はいわばサービス、5日分の調査費用2,500ドルの中には含まれない。

荒れ果てた今は無人の家
こうしてキンジーの調査が始まり、契約期間内に犯人を発見する。
ただし。
犯人の発見は、あくまでも偶発的なもの。

草刈りが終わった屋敷の庭
その時、「幸運」は二重にも三重にも重なってキンジーをたまたま、その場所、34年前の事件の現場、に運んだ。しかし、彼女がそのままその場を立ち去る可能性の方がはるかに高かった。それでもキンジーはそこで事件の全貌を理解する。
なぜ理解できたのか。
キンジーが備え持つ探偵としての能力が非常に高かったから、である。目の前に見えるものにキンジーの気持ちが向くに至ったのは、もはや「幸運」の力ではない。キンジーの脳内に起こった超高速脳細胞活動の結果である。
キンジーは直感に優れた探偵である。彼女の感受性は意味がないように思える事実をも実は確実に受け止めている。それがしっかり脳内に蓄積される。その総量は膨大なもので、ある瞬間、ある媒体の作用で、蓄積された情報の中からある一連の事実がみるみる繋がり、大きな意味を持って真実としてすとんと収束する。
それがこの時も起こった。このすばらしい瞬間が惜しみなく描かれるのが、荒れ果てた屋敷の二階の窓から俯瞰する草刈りの終わった庭。

強く注意を喚起する信号
その光景にキンジーの視線はくぎ付けになる。何かがキンジーの心をぐいと掴んで離さない。キンジーの頭の中で強い信号が点滅している。やがて、キンジーの幼いころの思い出が古い記憶の引き出しからスイと出てきた。

キンジーの叔母は庭で草花を育てた。
目の前の風景ががらっと変わる。キンジーはそこにこの事件の全容をはっきりと見た。
そこから犯罪の行為者までの距離は短かった。
つまり、豊かな感受性と鋭い直感そして経験量の大きさから、優れた探偵は生まれる。いずれも等しく重要な優れた探偵の資質である。しかも、キンジー・ミルホーンは往々にして強運を連れて歩いている。
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