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    カードの効用

    たくさんのインデックス・カード、情報を書き込むS is for Silence
    1枚に一つの情報。

    既訳の事件でも人称の異なる章立てをしていないかどうか、確認するために急ぎ購入した『A』から『Q』までの18冊、まず調べたのは『アリバイのA』。これはシリーズ最初の1冊だったので大変印象深く、筋の流れや細部をかなりよく覚えていた。第一章から最終章まで、事件は「わたし」によって書かれていることを確認した後、読まずにはいられず、ついつい読んだ。とても良いリズムで書かれている。嵯峨静江訳はとても自然な日本語だ。

    第3章に「カード」、登場。

    探偵キンジー・ミルホーンは、事件ごとにカード1枚に一つの情報を書き入れる。調査に行き詰まると、それを時間軸に沿って並べたり、シャッフルして順不同にして吟味したり、関連するものをまとめたり、と事件を異なるアングルから見る。そうした作業から、気付いていなかったこと、見落としていた点、隠れていた事実、の発見に至り、それが事件解決の糸口に繋がることがこれまで多々あった有効な手法だ。

    インデックスカードの箱整理

    インデックス・カードやCDの整理

    ちなみに、アメリカの犯罪捜査ドラマ(私が好きなのは Major Crimes、全シリーズを3回見た)では白板がよく使われている(日本でもね)。上に被害者の写真と名前を並べ、その下に容疑者の写真を貼って、刑事たちが腕組みしてその白板を見てあれこれ議論する姿がしょっちゅう画面に現れる。なるほど、白板は大勢で共有するのに最適な、「大きなカード」なのである。

    Sでもカードは登場。他の事件よりもカードに書き込むシーンが多いのではないか。話を聞くたび、終わるとすぐに車を静かな場所に停めて、バイオレットの夫から話を聞いた直後もそうだ、彼女はたった今聞いたことを漏らさず書き留める。ストーリーの最後では、カードの情報に目を通して、見落としていたことにハッと気づいている。もちろん、それが解決への突破口、ジグソーパズル最後のピース、となった。

    このカード利用は、その本が新しい読者の初めてのアルファベット・ノベルであることを想定して、本ごとに解説されるが、毎回同じ説明にならないように、少しずつ内容を変えて書かれる(すごいよグラフトン!)。今回このSで新しい情報として新鮮だったのは、このような関係者からの事件周辺の情報収集に、駆け出しのころはテープレコーダーを使っていた、ということ。

    二世代目カセットテープ・レコーダー

    これももう廃れてしまった。

    テープレコーダーなんてもはや古いツール、知らない人の方が多いのでは。1980年代ならば、主流はカセット・レコーダー(もっと古いタイプもあったんだよ、オープン・リールとか)。持って歩くには重い。小さな機械の中でテープが回る様が見えるので、その動きと音につい目と耳が行く、テープを途中で交換しなくてはならないこともある。何と言っても、書面起こしがすこぶる面倒だ。テープを再生しながら何回も巻き戻さなくてはならない。等々、テープレコーダーにあるあるのエピソードがリアルに語られる。

    たくさんの情報がキンジーの頭の中に入ってくる。それをきちんと交通整理する上で最良の手段として定着したこのカード式整理法。一つの仕事に身を入れれば、どのような仕事であれ、効率を高める手立て・段取りが出来上がる。そういうものの成り立ちを見ることはとても楽しい。キンジーはカード方式を確立する過程で、押しも押されもしない探偵のプロに成長したのだ。

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